大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和32年(ネ)499号 判決

控訴人(原告) 平山ヒサ

被控訴人(被告) 青森県知事

原審 青森地方昭和三〇年(行)第二一号(例集八巻一〇号187参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人所有の原判決添付目録記載の各土地につき昭和二四年九月一九日付をもつてした換地予定地指定処分の無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、授用、認否は、控訴代理人が、

一、控訴人はさきに、被控訴人が昭和二四年九月一九日付で本件各土地につき換地予定地指定処分をしたと主張したが、これを撤回し、被控訴人は右同日付で右換地予定地指定処分をしたと称しているものであると訂正する。すなわち、昭和三〇年五月二六日青森県都市計画課員が本件各土地に杭打ちをしたが、これによれば、控訴人に対しさきに指定された換地予定地の範囲が狭少となり、その地上に存在する控訴人の娘婿訴外岩崎慶助所有の建物のうち西南隅の部分が換地予定地外にはみ出すことになるので、ただちに抗議したところ、被控訴人ははじめて昭和二四年九月一九日付で右のように換地予定地指定を変更したと称するに至つたものである。

二、被控訴人は控訴人に対し昭和二四年九月一九日付換地予定地指定変更通知書を交付した事実はない。このことは、被控訴人がはじめ、控訴人に右通知書を交付しようとしたところ、受領を拒絶したと主張し、後これを改めて、控訴人は一たん右通知書を受領したが、後これを返還したと主張していることによつても明らかである。それのみならず、いやしくも換地予定地指定変更通知書の交付は、右処分に対する訴願や訴提起の期間進行の始点となるもので、極めて重大な行為であるから、行政庁としては当然指定通知書発送簿等を備付け、これに交付の事実を記載し、交付の相手方が受領すれば受領印を徴し、もし受領を拒否すれば、その事由を記載して、この間の事実関係を明らかにしておくべきものである。しかるに、被控訴人は右の事実関係を証するに足りるなんらの文書も提出していないし、もし控訴人が右通知書の受領を拒絶し、これを被控訴人に返還したとすれば、右通知書は被控訴人の手中にあるわけなのに、これをも提出しないのであつて、この点からしても、被控訴人主張のような換地予定指定変更通知書なるものは控訴人に交付されなかつたことはもちろん、交付のため呈示されなかつたことも明らかである。

三、控訴人は被控訴人が主張するように本件各土地内に、換地予定地指定の変更を前提として建物を建てたり、もしくはこれを増改築した事実はない。

四、被控訴人が主張する本件換地予定地指定の変更に関する協議なるものは存在しなかつたし、また控訴人はかかる変更の相談も受けたことはない。

と述べ、被控訴人の後記主張事実を否認し、控訴人は岩崎慶助に本件換地予定地指定変更通知書の受領等に関し代理権を与えたことはないと述べた。

被控訴代理人が、被控訴人は控訴人から本件換地予定地指定の件につき一切を委任されていたその娘婿岩崎慶助に本件換地予定地指定変更通知書を交付したところ、同人は一たんこれを受領しながら、不服ありとして即日被控訴人に返還したものである。仮りに、控訴人が主張するように控訴人に対し右指定変更通知がされていないとすれば、控訴人は従前の土地について依然本来の所有者として使用収益することができるのであるから、なんら利益を害されていないものというべく、したがつて、控訴人の本件訴は法律上の利益を欠き、不適法として却下されるべきものであると述べた。

(証拠省略)

理由

成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証の一、二、三、第三号証の一、二、原審証人中村浩、望月倫一、望月信治の各証言、当審証人岩崎慶助(第一、二回)の証言の一部(たゞし、後記措信しない部分を除く)によれば、控訴人所有の原判決添付目録記載の各土地は、被控訴人が昭和二二年六月特別都市計画法に基づき施行した土地区画整理地区(一五九ブロツク)に編入され、従前の合計面積二六五坪に対し一七〇坪が現場のまま換地予定地に指定され、同月二五日控訴人にその旨通知されたこと、ところがその後測量上の誤りが原因で換地予定地指定図面と現地とが一部符合しないことが判明したので、昭和二四年九月控訴人とともに一五九ブロツクに換地予定地を指定された者全員が青森信用組合に集合して右指定の変更について協議した結果、全員が変更に同意したこと、控訴人は当時すでに六八才の老齢であるうえ文盲でもあつたので、控訴人と同居中の娘婿の岩崎慶助に本件換地予定地指定に関すること一切を委任していたところ、同人が右協議に出席して控訴人のために種々発言し、右変更に同意したものであること、よつて被控訴人は右協議の結果に基づき同月一九日付をもつて前示換地予定地指定を変更する旨の処分(右変更により、控訴人に指定された分は八坪三合二勺増歩され、一七八坪三合二勺となつた)を、そのころ控訴人の代理人岩崎慶助に対し右指定変更通知書を交付すべく呈示したところ、同人はその受領を拒絶したこと、以上の事実を認めることができる。右認定に反する当審証人岩崎慶助の第一、二回の証言部分は前記認定に供した各証拠に照らしにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠がない。

特別都市計画法には、自作農創設特別措置法九条の買収令書の交付に代わる公告に相当する規定はないが、通知の相手方が受領を拒絶した場合、通知の効力が生じないとすると、計画事業施行者はその後の手続を進めることができなくなるから、いやしくも右通知書を相手方の受領し得べき状態に置くことによつて通知があつたと同一の効力が生ずるものと解すべきである。してみれば、被控訴人が控訴人の代理人岩崎慶助に対し前示換地予定地指定変更通知書を呈示し、その受領を求めたときに、通知があつたと同一の効力が生じたものというべきであり、したがつて、この点に関する控訴人の主張は失当であり、採用できない。

次に、控訴人は、被控訴人が右換地予定地指定の変更処分をするにあたり、あらかじめ土地区画整理委員会の意見を聞かなかつたのは違法である旨主張するので判断するに、原審証人中村浩の証言によれば、被控訴人は前示変更処分後昭和二四年一〇月四日ごろ土地区画整理委員会にその旨報告し、その了承を得たことが認められる。換地予定指定の変更処分をするにあたつては、あらかじめ同委員会の意見を聞かなければならないのであつて、変更処分後に事後承認を得るだけでは足りないことは、特別都市計画法一〇条の規定に徴し明らかであるけれども、右処分につき土地区画整理委員会の意見を聞くことは必ずしもその処分の有効要件ではないと解すべきであるから、被控訴人が右変更処分に先きだち土地区画整理委員会の意見を聞かなかつたとしても、右変更処分が無効であるということはできない。したがつて、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきであり、右と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 石井義彦 佐藤幸太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例